AI接客アドバイザー — 対話型の商品診断・レコメンド

ECサイトに「接客」を実装。対話で要件を聞き取り、根拠のある商品提案までつなげるAI診断機能

AI接客商品診断レコメンド対話型UIEC
読了時間: 9分

はじめに

実店舗の良さは何かと聞かれたら、私は迷わず「接客」と答えます。ベテランの店員さんは、お客様との何気ない会話から用途や好みを引き出し、その人にぴったりの商品を理由付きで提案してくれますよね。

一方、ECサイトはどうでしょう。検索とカテゴリ絞り込みだけで、自分に合う商品を見つけるのはお客様任せ。この記事では、モーターサイクル用品を扱うECサイトに実装したAI接客アドバイザーの全体像を紹介します。対話で要件を聞き取り、根拠のある商品提案までつなげる仕組みです。

店頭の接客をオンラインで再現する

ECサイトに欠けているもの

ECサイトには商品情報も検索機能もあります。それでも「自分にはどれが合うのか分からない」という声は絶えません。とくにヘルメットやジャケットのような専門性の高い商品は、スペック表を眺めるだけでは判断が難しいんです。

店頭であれば「どんな乗り方をされますか?」の一言から会話が始まり、候補が自然に絞られていきます。この対話による絞り込みこそ、ECに欠けている体験だと考えました。

ベテラン店員の頭の中を分解する

接客をシステム化するために、まずベテラン店員が何をしているのかを分解しました。整理すると、大きく3つの働きに分かれます。

  1. ヒアリング — 用途(ツーリング・通勤など)、好み、予算を聞き出す
  2. 知識との照合 — 商品知識と経験から候補を選ぶ
  3. 提案と説明 — 「なぜこれがおすすめか」を理由付きで伝える

この3つをそれぞれ、対話設計・RAG検索・可視化UIという技術要素に対応させたのが本システムです。

対話型診断という形式

「診断コンテンツ」というと、選択肢を順番に選ぶアンケート型が定番です。ただ、アンケート型は分岐を全部事前に設計する必要があり、自由な相談ができません。

そこでLLMを使った対話型にしました。お客様は自分の言葉で「週末に長距離ツーリングに行く」と話せばよく、AIがそこから用途・好み・予算を読み取ります。足りない情報があれば、AIの側から質問する設計です。

システムの全体像

3つの構成要素

システムは「対話エンジン」「ナレッジベース」「提案UI」の3層で構成しました。

AI接客アドバイザーの構成
提案UI

チャット画面・比較表・レーダーチャート

対話API(start / message / recommend)
対話エンジン

ヒアリング状態の管理・質問生成・LLM呼び出し

検索
商品マスタ

Shopifyから同期(商品詳細・バリアント)

ナレッジベース

取扱説明書などをベクトル化して保存

対話エンジンがお客様とやり取りしながら、裏側で商品マスタとナレッジベースを検索し、結果をUIが分かりやすく表示する流れです。

Shopifyと連携する商品マスタ

提案の元になる商品情報は、Shopifyの商品データから定期的に同期しています。商品名や価格だけでなく、バリアント(カラー展開やサイズ)まで取り込むのがポイントです。

在庫のないサイズを提案しても意味がないですし、「この色ならあります」まで言えてこそ接客ですよね。さらに身長や体格などの身体寸法から適切なサイズを割り出すサイズ提案ロジックも組み込み、試着できないECの弱点を補っています。

根拠を支えるナレッジベース

商品マスタだけでは「防水性能はどの程度か」「どんな素材か」といった深い質問に答えられません。そこで、商品の取扱説明書PDFやWeb上の商品情報をテキスト抽出し、チャンク化・Embeddingを経てNeon Postgres(pgvector)にベクトル保存しました。

AIは提案の前にこのナレッジベースを検索し、実際の資料に書いてあることだけを根拠に説明します。いわゆるRAG(検索拡張生成)の構成で、「それらしい嘘」を防ぐ要になっています。

対話から提案までの流れ

ヒアリングで要件を揃える

お客様が診断を開始すると、AIはまず用途を尋ねます。以降の会話では、回答から読み取れた情報をステートに記録し、まだ埋まっていない項目だけを質問していきます。

診断セッションの流れ
セッション開始

startで会話を開始。最初の質問を提示

対話ヒアリング

messageで往復。用途・好み・予算の充足状況をステートで追跡

レコメンド生成

要件が揃ったらrecommendを呼び、商品マスタ+RAG検索で候補を選定

提案の可視化

比較表・レーダーチャートで候補を提示。関連アイテムも案内

大事にしたのは聞きすぎないことです。質問攻めにされたらお客様は離脱してしまいますから、必要最小限の項目が揃った時点で提案に進みます。

根拠付きのレコメンド

要件が揃ったら、商品マスタから条件に合う候補を絞り込み、ナレッジベースで各候補の特徴を裏取りした上で提案文を生成します。

「ツーリング用途なら、この商品は取扱説明書に記載の通りベンチレーション機構があり長時間走行でも快適です」のように、出典のある説明ができるのがRAGの強みです。AIの想像で語らせないことが、EC接客では特に重要だと感じています。

可視化が納得感を生む

提案はテキストだけでなく、候補商品の比較表と特性のレーダーチャートで表示します。並べて見比べられると「なぜこれがおすすめなのか」が一目で伝わるんです。

さらに、選んだ商品に合う関連アイテム(ヘルメットに合うインカムなど)をアップセルとして提示します。店頭で「ご一緒にこちらもいかがですか」と勧められる、あの体験の再現です。

まとめ

AI接客アドバイザーの全体像を紹介しました。ポイントは次の3つです。

  1. 店頭接客の分解 — ヒアリング・知識照合・提案説明をそれぞれ技術要素に対応させた
  2. 根拠のある提案 — 商品マスタ×RAGで「それらしい嘘」を防ぐ
  3. 可視化 — 比較表とチャートが納得感を生み、購入の後押しになる

各要素の詳細は、それぞれのサブ記事で掘り下げています。ヒアリングの質問フローとステート管理は「ヒアリング対話の設計と状態管理」、ナレッジベース構築とRAGの仕組みは「商品マスタ×RAGで『根拠ある提案』を作る」、比較表・チャートのUI設計は「比較表・チャートで提案を可視化するUX」をご覧ください。