はじめに
クロスセルの提案枠を作ったものの、中身が半年前のまま更新されていない。ECサイトの運用でよくある状態です。原因はたいてい担当者のやる気ではなく、更新するのに開発依頼が必要だったり、件数が多すぎて手が回らなかったりする仕組みの側にあります。
この記事では、アパレル・ギア系のECサイトで作った管理UI(担当者が設定を編集する画面)と、CSV(表計算ソフトで開ける一覧形式のファイル)による一括運用を紹介します。1件ずつ丁寧に直す画面と、数千件をまとめて扱うCSV。この2つをどう使い分けているかが本題です。更新が止まらない運用をどう設計するか、という視点で読んでもらえればと思います。
提案を人が選ぶことで何が変わるか
商品知識をそのまま提案に載せられる
「このジャケットには、この補修パーツとこのインナーが合う」という判断は、商品の使われ方を知っている人にしかできません。データの上では無関係に見える組み合わせでも、実際の用途を知っていれば的確に選べます。人が選ぶ方式の一番の価値は、担当者の頭の中にある知識をそのまま提案に反映できることです。
購買データからの自動抽出では拾えない組み合わせ、たとえば経験者が好んで使う周辺アイテムや、あえて押し出したい新商品も、人が選ぶなら自由に入れられます。
「いま推したいもの」を反映できる
在庫を早く動かしたい商品、利益率の高い商品、シーズンの目玉。こうした販売側の意図は日々変わります。人が選べる仕組みなら、その時々の狙いを提案枠にすぐ反映できます。アルゴリズムに同じことをさせようとすると、条件の設計そのものが大がかりになりがちです。
過去の購買データが根拠。新商品や在庫調整の意図は反映しづらい
商品知識と販売意図をそのまま反映。変えたいときにすぐ変えられる
図の違いは、提案の根拠が「過去のデータ」なのか「いまの販売意図」なのか、という点にあります。
自動と手動を組み合わせる
とはいえ、すべてを人が選ぶ必要はありません。商品数が多いサイトでは、定番カテゴリは自動レコメンドに任せ、意図を込めたい商品だけ人が上書きする、という併用が現実的です。この記事で扱うのは、その上書きを担当者が無理なく続けられるようにする部分になります。
管理画面でできること
商品ごとに提案商品を紐づける
商品ページのクロスセルは、商品1件ごとに「一緒に勧める商品」を設定します。管理画面では、対象の商品を検索して選び、提案したい商品を追加していく、という操作です。並び順も指定できるので、一番見せたい商品を先頭に置けます。提案枠は最初の1〜2点が見られる割合が高いので、この順番の指定は効きます。
思い立ったときにすぐ直せる状態を保つ
管理UIを用意した狙いは、運用を担当者の手に戻すことです。設定がコードの中に書き込まれていると、季節の入れ替わりやセールのたびに開発依頼が必要になります。依頼から反映まで数日かかる状態が続くと、更新の優先度は下がり、やがて誰も触らなくなります。
思い立ったときに自分で直せる。この状態を保てるかどうかが、提案の鮮度を左右します。ちなみにこの管理画面自体の実装には、AIエージェント(AIによる開発支援)を使いました。やりたい運用を言葉で伝えると、必要な画面の形まで一緒に詰められる範囲は思っていたより広かったです。
管理UIとCSVの役割分担
管理UIは「1件を丁寧に」「今すぐ直したい」場面に向いています。数百・数千件をまとめて扱うなら、後述のCSVのほうが圧倒的に速い。両方を用意して、場面で使い分けるのがコツです。
CSVで数千件をまとめて扱う
画面での1件ずつの編集には限界がある
商品数が数百を超えると、紐づけの総数は数千件規模になります。これを画面で1件ずつ編集するのは、単純に時間が足りません。「新しく追加したカテゴリの全商品に、定番の補修パーツを提案として入れる」といった作業は、画面操作だと丸一日かかることもあります。
そこで、現在の設定をCSVで書き出し、表計算ソフトでまとめて編集し、また取り込み直す運用にしました。大量の行を見渡しながら一括で置換・コピーする作業は、Web画面より表計算ソフトのほうが向いています。先ほどの作業も数分で終わります。
現在の提案設定をCSVとして書き出す
まとめて追加・削除・並べ替えを行う
編集したCSVを取り込み、設定を上書きする
存在しない商品IDなどをチェックしてから確定
図の流れは、書き出す・直す・戻す・確認する、の4段階です。編集の中身は表計算ソフト側で自由にできます。
取り込み前の検証で事故を防ぐ
一括インポートは作業が速い分、間違いも一気に広がります。存在しない商品IDを書いてしまう、すでに販売終了した商品を指定してしまう。こうした行がそのまま通ると、サイト側では空の提案枠が表示されることになります。
そこでインポート時に、商品IDが実在するか、形式が正しいかを検証し、問題のある行を弾くようにしました。取り込みを確定する前に「何件が更新され、何件がエラーか」を画面で確認できます。エラーの行番号も出るので、表計算ソフト側で直してやり直せます。
運用手順として定着させる
CSV運用は、担当者の作業手順として定着して初めて価値が出ます。書き出す、編集する、取り込む、という流れをできるだけ単純に保ち、うまくいかなかったら元のCSVを取り込み直せば戻せる状態にしておく。この「間違えても戻せる」という前提があると、担当者が自分の判断で更新を回せるようになります。
表の要点は、少数を今すぐ直すなら管理UI、大量をまとめて直すならCSV、という使い分けです。
まとめ
クロスセルの品質は、提案を選ぶ人と、その人を支える道具で決まります。今回の仕組みのポイントは次の3つでした。
- 商品知識と販売意図を反映できる、人によるキュレーションを軸にする
- エンジニアに頼らず更新できる管理UIで、提案の鮮度を保つ
- 大量の紐づけはCSVで一括更新し、取り込み前の検証で事故を防ぐ
提案枠の見せ方や、追加するときのUIについては、次の記事で解説しています。