はじめに
「この商品と一緒にどうぞ」という提案は、ECサイトの客単価を左右する要素です。ところが自動のレコメンド機能を入れてみたものの、出てくる商品がどうも噛み合わない、という声はよく聞きます。並んでいる商品に関連性が感じられず、結局ほとんど押されないまま枠だけが残っている、という状態です。
アパレル・ギア系のECサイトで担当したクロスセルでは、カート画面と商品ページ(PDP。商品の詳細を見せるページ)の両方に提案枠を用意し、何を提案するかを人が管理画面から決められる仕組みを作りました。この記事では、その全体像と、なぜ自動化ではなく運用重視の設計にしたのかを整理します。
なぜ「人が選ぶ」クロスセルなのか
自動レコメンドが届かない範囲がある
購買履歴から関連商品を自動で導き出すレコメンドは強力ですが、苦手な領域もあります。発売したばかりの新商品は購買データが溜まっていないので、そもそも提案候補に上がってきません。売りたい時期と、データが揃う時期がずれてしまう、という構造上の問題です。
専門性の高い組み合わせも同じです。「このジャケットには、この補修パーツとこのインナーが合う」といった判断は、商品の使われ方を知っている人でないと難しい。データだけを見ると、たまたま同時に買われただけの無関係な商品が並ぶこともあります。
人が選ぶ「キュレーション」という考え方
そこで採用したのが、担当者の目利きによるキュレーションです。コーディネート提案、補修パーツ、関連アクセサリなど、「この商品を買う人なら、これも必要になるはず」という組み合わせを人が選びます。
購買データから自動抽出する。新商品や専門的な組み合わせには弱く、意図しない商品が並ぶこともある
商品知識を持つ担当者が組み合わせを選ぶ。狙った提案ができ、選んだ根拠も説明できる
図の違いをひとことで言えば、提案の決め手が「過去のデータ」なのか「いまの商品知識」なのか、という点です。
とはいえ、自動レコメンドを否定しているわけではありません。定番商品や在庫の厚いカテゴリは自動に任せ、意図を込めたい場面だけ人が上書きする。この使い分けが現実的です。このトピックで扱うのは、その「人が選ぶ」部分を支える運用の仕組みになります。
2つのクロスセル枠と全体構成
カート画面と商品ページでは、ユーザーが置かれている状況が違うので、提案の出し方も分けています。
表の要点は、カート枠は「カートの中身」というルールで、商品ページ枠は「商品ごとの紐づけ」で提案を決めている、という違いです。
ルール設定・CSVの書き出しと取り込み
カートの中身に応じて表示
商品ごとに表示
サイズを選んでそのまま追加
図にすると、担当者が管理画面で決めた提案データが2つの枠に流れ、ユーザーはその枠から直接カートに商品を足せる、という一本の流れになります。
運用が続く状態をどう保つか
どんなに良い提案でも、更新されなくなれば内容が古びます。季節の入れ替わりやセール、在庫状況によって「いま勧めたいもの」は変わるからです。だからこそ、エンジニアの手を借りずに担当者が自分で設定を変えられる管理UIが欠かせません。設定がコードの中に書き込まれていると、変更のたびに開発依頼が必要になり、やがて誰も更新しなくなります。
一方で、商品ページの提案は件数が多く、1件ずつ画面で編集するのは現実的ではありません。そこで現在の設定をCSV(表計算ソフトで開ける一覧形式のファイル)で書き出し、まとめて編集してから取り込み直せるようにしました。
表計算ソフトが得意な作業
数百・数千件の紐づけを一覧で見ながら編集するのは、Web画面よりも表計算ソフトが向いています。「新カテゴリの全商品に定番の補修パーツを追加」といった作業も数分で終わります。
なお、この管理画面そのものの実装にはAIエージェント(AIによる開発支援)を活用しました。非エンジニアでも、やりたい運用を言葉で伝えれば形にできる範囲は思っていたより広い、というのが正直な実感です。
まとめ
クロスセルは、アルゴリズムの精度を上げることだけが成果につながる道ではありません。人の目利きを活かし、それが運用として続く状態を作れるかどうかが効いてきます。今回の設計のポイントは次の3つでした。
- 自動レコメンドが届かない新商品や専門的な組み合わせを、人のキュレーションで補う
- カートと商品ページ、それぞれの状況に合った提案を出し分ける
- 管理UIとCSVで、担当者が無理なく更新を続けられるようにする
それぞれの詳しい話は、以下の3記事で解説しています。